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食用コオロギ会社「グラリス」の破産申請はSNSによる反発が要因?

ライフスタイル

「グラリス」の創業から破産手続きまでの流れ

徳島大学発のベンチャー企業「グリラス」は食糧問題の解決策として昆虫食が注目されるなか2019年に創業されました。

創業時の開設意図はおもに以下の3点です。

  1. 「人口増加に伴う食糧確保の必要性」:家畜の飼育が追いつかなくなったときに、昆虫食が貴重なたんぱく源になるから
  2. 「たんぱく質摂取の効率が高いこと」:コオロギは鶏や豚、牛と比べて、3倍近くのたんぱく質を含んでいること
  3. 「環境への負荷が少ない」:昆虫を生育する際の温室効果ガス排出量、そして必要な水やエサの量は一般的な家畜と比べて圧倒的に少ないので環境負荷も軽減が予想されること

2020年にコオロギせんべいを無印良品で、22年にはコオロギの粉末入りコーンスナックを大手コンビニで発売。23年1月にはNTT東日本と組んで、食用コオロギの効率的な飼育の実証実験も始めました。

当初は廃校になった美馬市の旧小学校舎などで食用コオロギを量産してきましたが、好調な売り上げを背景に徳島市川内に川内ファーム(本社)を美馬市の美馬ファームとともに工場を操業させ業務の拡大を遂げたのです。

マスコミなどに注目されたのも追い風となって23年5月期の売上高は約3800万円と過去最高の売上を挙げるまで急成長したのですが・・・

22~23年ごろに、コオロギの粉末を使った給食のメニューを県内の高校で希望者に提供したことが報道されると、SNSなどで「炎上」状態になりました。

これを受け、全国販売を計画していた案件などが次々と中止になり大量の在庫を抱えたとされています。

その後業務の悪化や、それにともなう縮小を余儀なくされ新規事業を計画し、国に補助金の申請をしたが不採択となり、それが最終的な引き金となり事業継続を断念したものと思われます。

SNSによる反発を招いた3つの問題の考察

SNSによる大炎上を招いた要因は以下の3つによることの相乗効果だと思います。

1.高校での給食の仕方の説明不足

ことの発端は22年頃から行われた徳島県内の公立高校に出されたコオロギパウダーを使った「コオロギ給食」に対するSNSの強い反発です。

SNSの意見の多くは「安全性は本当に大丈夫なのか」「給食で子供たちに出すべきものなのか」「コオロギ食は食料問題の解決に役立つというが疑わしい」といった批判によるもので、これはコオロギ等の昆虫を食材に対する忌避感によるものも大きく作用したものだと思われます。

しかし、この高校でのコオロギパウダーを使った給食についての告知不足が、ある意味誤解を招き、多くの反発を招いたものだったのです。

そもそも徳島県内の高校がコオロギパウダーを使った給食は、正しくは専門科目での集団給食であり、試食は抵抗感やアレルギーのある人を除く希望者への提供が前提で、アレルギーなどについても事前に説明されたとものだったということです。

原料サプライヤーの「グラリス」としては「高校生のアイデアに協力した」格好であり、強制ではなかった給食だったということで、総じて「コオロギ給食」のそもそもの趣旨がうまく説明できていなかったということです。

これによってSNS上では、「子どもに食べさせるな」などのクレームが相次ぎ、結果的に大炎上を招き、その後、「食糧危機を絡めることに疑問を感じる」といった実業家らのメッセージも拍車をかけ、昆虫食は一気に逆風にさらされることになったというものです。

2.「コオロギ」を食べるということの必要性と忌避感

そもそも「グラリス」創業の最大の趣旨の1つである「人口増加に伴う食糧確保の必要性」がいまの日本の食事事情にマッチしたものかどうかということに対する疑問です。

「食料確保の必要性」は「食料危機」につながる考えだとおもいますが、いまの日本に暮らしている限り、全くリアリティを感じないという人が大多数ではないでしょうか。

農水省によると、日本で廃棄される食料は年間522万トン。SDGsの文脈で「食品ロスを削減すべし」と訴えながら、もう一方では「食料危機に備えよ」という現状です。

食材の値上がりが激しくてなかなか手が出ないということと、食糧危機とはまったく別問題で、「食料確保の必然性」に対する納得感が乏しいのは当然の結果です。

百歩譲って、「動物性たんぱく源の確保が必要」なので「コオロギ」を食べるという説明もちょっと苦しいものがあります。

なぜなら国は生乳の生産抑制のため、乳牛の殺処分に対し1頭あたり15万円の助成金を出すことを決めるほど、たんぱく質は捨てざるをえないほど余っているのが今の日本なので、この点も現状と乖離した部分ですね。

安全性もわかりにくいし、加工される前の形が想像されやすい「コオロギ」などの昆虫を食べるということに対する忌避感はなかなかぬぐえないのも日本人の正直な意見ではないでしょうか。

3.ベンチャー企業として支持を受けにくい思考

ベンチャー企業が広く社会の支持を得るには「社会課題を解決する」という目標を掲げることがまず第一に必要なことです。

日本の現状の食生活について「飽食の時代」が依って立つ基盤は、必ずしも盤石ではないことは抗しがたい過去の現象が証明しています。

つまり、いつ大震災、気候変動による自然災害や原発へのテロ、地域紛争の可能性がおきるかは否定できないし、それによって飽食を揺るがしかねない懸念を挙げれば、キリがないし、日本人の記憶の奥にはきっとあり得る事実として残っているものです。

つまり、将来の食糧危機を憂うために事業を続けるということは、非常に苦しく大変なことであるがゆえにベンチャー企業としてもつ強い信念を持ち続け、一般に理解されるための努力をし続ける必要があったのです。

「コオロギを食べるのは個人の嗜好の問題」という一部のベンチャー事業者の意見は、確かに「正論」ですが第三者が言うならともかく、当事者がそれを言っちゃあこれまで訴えてきた「社会課題」は「その程度の話だったのか」となりかねないからです。

今回の騒動に際して、起業家の「コオロギ食に懸ける想い」に、どこか「軽さ」を感じ、同時に協業相手の大企業にも「SDGsに乗っておけば社内外で評価されるはず」という「軽さ」が相乗した結果のように思えます。

参考記事:東洋経済オンライン:【「コオロギパン」社長ブログが正論だけに残念な訳】より


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